ピーター・センゲ教授が提唱した「学習する組織」を題材に、
「学習型チームに不可欠な5つの要素」を2回に分けてお伝えします。

前回は、「学習型チーム」の全体像と組織のリーダーとしての役割(前半記事)についてでした。
ここでは、その学習型チームに不可欠な5つの要素を紹介していきます。

自己マスタリー

このスキルの理解は、

「学習する組織」といった時に、果たして学習するのは誰なのか。

という問いに始まります。

組織そのものは学習しません。それは、組織とは概念に過ぎないからです。
「学習する組織」に必要なのは、「学習する個人」ということです。
学習する個人がいなければ、学習する組織などありえないということですね。

センゲは、

自己マスタリーの高いレベルに達した人たちは、たえまなく自己の能力を押し広げ、自らが本当に探し求める人生を創造しつづけている。継続的な学習を追求することによって、学習する組織、ラーニング・オーガにゼーションが生まれるのだ。『最強組織の法則』

そもそも、この場合の自己マスタリーの「マスタリー(mastery)」は、
「熟練」という意味で、
自分を磨くことを指しています。

さらに、センゲは、「自己マスタリー」には、2つの活動があると言います。

「自己マスタリー」2つの活動

  1. 自分にとって何が大事かをつねに明らかにしつづけること。
  2. どのようにすればいまの現実の姿がもっとはっきりと把握できるようになるか、
    学習しつづけること。

言い換えると、

  1. 自分のビジョンを、常に明確にし続けること
  2. どうしたら現状をリアルに把握できるかということを、常に学習し続けること」

ということです。

そして、この関係性を保って上で学ぶことがとても大事だと、
センゲは重要視していて、彼は、
これを「クリエイティブ・テンション」(創造的な緊張関係)とも読んでいます。

ビジョンだけでもだめ、現状ばかり見てもだめ。
両方を同時におきながら、学習することだと言っているんですね。

戦略なくして、戦術あらず。
戦術なくして、戦略あらず。

絵空ごとで終わらない。リアルな思考とも言えます。

メンタルモデルの克服

「メンタルモデル」とは、我々の心に固定化されたイメージや概念を指します。
いわゆる「固定観念」です。

「男だから、女だから、大人だから、子どもだから●●すべき」

多くの人は、偏った価値観に基づいた評価、判断を無意識のうちにしてしまいます。
日本の社会も同じくです。
女性を管理職に登用することが、先進国の中で、とても遅れていますが、
これは、組織全体に固定する「メンタルモデル」が、そうさせてきたわけです。

  • 名案だというアイデアでも、どういうわけか実行されない。
  • どんなに素晴らしい戦略でも、実行に移されない。
  • それが素晴らしい洞察だとしても、いっこうに現場の方針に活かされることがない。

このような「達成目前での足踏み」の原因は、
単なる決断の弱さとか、ためらいではないとセンゲは言います。

実は、この心の奥底にある固定観念である、強力で暗黙のメンタルモデルが、
無意識に働き、多くの実施に試されるに至らずに、
今までの慣れ親しんだ考え方や行動に縛りつけいるということです。

ロイヤル・ダッチ・シェル社が、あのオイルショックにより、世界の石油情勢が激変した、
1970年代から1980年代に、驚異的な成功をおさめ、切り抜けることができた理由は、
実はこのメンタルモデルの克服に気づけたからという逸話があります。

管理職のメンタルモデルを明らかにし、挑戦するやり方にシフトしたそうです。
当時のシェル社は、オイルメジャー7社中最弱小だったそうですが、
80年代には、一時最強とまで上り詰めています。

最後に、メンタルモデルの克服に取り組む方法をご紹介します。

メンタルモデルの克服に取り組む方法

  1. メンタルモデルが知らずに影響を及ぼしていることを認識する
  2. 内に鏡を向ける
  3. 「内省」と「探究」を繰り返す
  4. 表にさらけ出し、じっくり精査する
  5. 個々人がそれぞれに抱えている固定的なイメージや考え方を必要に応じて変えていく

順番もポイントです。認識から素直に内に鏡を向けてみましょう。

共有ビジョンの構築

センゲは、「学習する組織」の実現手段の不可欠な要素として、
「共有ビジョンの構築」をあげています。

「共有ビジョンなしにラーニング・オーガニゼーションは実現できない。人々が真に成し遂げたいと思う目標への牽引力がなければ、現状を支持するほうが圧倒的となる。全てに先行する目標をビジョンがつくり上げるのだ」『最強組織の法則』

「共有ビジョン」とは、チームが達成したい将来のイメージを共有することです。
「共有ビジョン」は、学習のための集中力やエネルギーをもたらします。

適応型の学習はビジョンなしでも可能ですが、、、
創造型の学習、つまり、主体性を持ってクリエイティブに取り組む学習は、
ビジョンが、メンバーを自ずと学ばせ、パフォーマンスを引き出します。

そうせよといわれるからではなく、
そうしたいがゆえの主体性の上に、行動を重ねていきます。

では、どのように「共有ビジョン」を浸透させるといいのでしょうか?

個人のビジョンを奨励する

ハノーバー保険の元CEOのビル・オブライエンは、

「私のビジョンは君にとって、重要なものではない。
君を動機付けする唯一のビジョンは、きみ自身のビジョンなのだ」

と述べています。これは、どういうことかというと、、、

「共有ビジョン」に心から関心を抱くというのは、
個人のビジョンに根ざしているからなんです。

「共有ビジョン」を築くことに力を注ぐチームは、
個人のビジョンをつくり出すよう、メンバーをたえず励まします。

もし自分自身のビジョンを持っていなければ、
他の誰かのビジョンに「加入する」しかありません。

その結果もたらすられるのは、服従ですよね。

これに対し、自らの進むべき方向を認識している人々は、
結束して、自分たちが真に望むものに向かって力強い作用を生み出すんです。

つまり「共有ビジョン」を築くために、
「個人のビジョン」を明確にすることにはじめてみましょう。

その時に個人のビジョンを奨励するにあたって、注意すべき点があります。
それは、個人の自由を侵害しないように気をつけることです。

これは先に「自己マスタリー」で解説したように、
そもそも他人に「自分のビジョン」を与えることは出来ないからです。

学習するのはメンバーであり個人です。
メンバ自身の学習なくして「学習する組織」はありえません。

つまりメンバーを「服従」させるのではなく、
メンバーのコミットメント(参加)を促すことが、何より大切です。

チーム学習

NBAのボストン・セルティックスの元選手ビル・ラッセルは、

「構想と才能に関しては、だれもがスペシャリストのチームだった。どの分野でもそうだと思うが、個々が優秀であることに加え、みんながいかにうまく一緒にやっていくかが大切なのだ。お互いの特性を補い合わせなければならないと努力して理解する必要はなかった。ただ、自然とそうなっていたのは事実で、どうすれば自分のチームがもっと力を出せるか皆が考え出そうとしていた」

と、13年間で11度世界チャンピオンになり、最強時代をこう振り返っています。

当時のセルティックスは、「一致協力」と呼ばれる現象を実現したとも言われていて、
まさに「チーム学習」とは、チームのメンバーが本当に望んている成果を生み出すために、
一致協力してチームの能力を伸ばしていく過程であるとされているんですね。

「チームビルディング」という言葉がある通り、
「チーム」として「力を合わせる」意識がメンバーでなければ、
個人も力もパフォーマンスを発揮できずに終わります。

個人が学習しても、チームとして学習しなければ、
「学習する組織」につながらないんですね。

その根底には、先でも解説した、
「共有ビジョン」「自己マスタリー」が働いた上に、成っているということです。

チーム学習を深める方法

チーム学習を通して、
スポーツ・舞台芸術・科学そして、ビジネスの分野でも、
個人にできる以上の洞察力や思考力を超えて、
大きな成果を出してきた例は、たくさんあります。

このチーム学習を深める方法として、
センゲは、中でも〝対話〟を重要視しています。

メンバー同士が個々のメンタルモデルを棚上げして、
本当の「共同思考」を重ねること。

「意見交換」と「ディスカッション」という二つの異なる対話方法を、
使い分けながら、
「チーム学習」を深めていくことが、
学習型組織には必須とされています。

システム思考

センゲは、「システム思考」について、
先に解説した4つを統合する役割を果たし、
「学習する組織」の土台となる思考方法だと説明しています。

書籍では、「システム思考」について、こう定義しています。

「システム思考とは、複雑なシステムの根底にある「構造」をとらえ、影響力の大きい変化と小さい変化を識別するためのディシプリンなのだ」『最強組織の法則』

そもそもシステム思考とは、
解決すべき対象や問題を「システム」として捉え、
いろんな角度から原因を探り、問題解決を目指す方法論として、
すでに外資系企業ではよく取り入れている有名マネジメント手法で、
根本的な解決技法として注目されている思考です。

要するに、

組織を、一つの構造として捉えることで、
組織のどの部分に根本的な原因があるかを自ら気づけるようになる

これが、学習型組織として、
超重要な問題解決の思考法のベースですよと言っているんですね。

私は、チームをサポートをするときは、
「チームを一人の人格として捉え、サポートすること」を行動理念としています。

これは、チームを一つの構造として捉えることと同じ理屈なんです。
一人の人格としてチームを捉えると、
どこに問題があるのかが見えるんです。

このチーム力学研究室は、
まさに、チームを構造として捉えることをベースにしています。

チーム力学を理解することが、
チームを構造として捉えることにつながるんですね。
その先に、最適に機能するチームづくりがあるんです。

システム思考とは、構造的相互作用を把握する能力とも言われます。
すなわち、チーム力学を把握する能力なんですね。

センゲの話に戻します。

「システム思考なくしては、他の学習ディシプリンが実行されても、それを統合するための誘因や手段がない。第五のディシプリンとしてのシステム思考は、ラーニング・オーガニゼーションの世界観の基礎をなすものなのである」『最強組織の法則』

システム思考の基本は、物事を多面的に捉える力です。
人間は、自分の過去の経験や成功体験によって、物事を判断する生き物で、
そのため、物事を俯瞰してみることが、ついついできなくなります。

だからこそ、
チーム内で起こっている出来事のパターンや構造、
因果関係を正確に把握するために、
一度立ち止まり、全体を俯瞰的に見る力、
システム思考がとても重要なんです。

まとめ

学習する組織の5つの構成スキル

  1. 自己マスタリー(Personal mastery)
    個人が明確な目標・目的を持ち、それを更に高いレベルまで導いていく
  2. メンタル・モデルの克服(Mental models)
    個々人がそれぞれに抱えている固定的なイメージや考え方を必要に応じて変えていく
  3. 共有ビジョンの構築(Shared vision)
    個人と組織のビジョンに整合性を持たせ、誰もが共感・共有されるビジョンを構築する
  4. チーム学習(Team learning)
    基本的な単位はチームとなるので、チームで学習が出来るようなスキルと場を養う
  5. システム思考(System thinking)
    ビジネスにおける構造的相互作用を把握する能力
    →チーム力学を把握する能力
    →学習する組織の基礎