集団浅慮の概念

集団浅慮とは、グループ・シンクや集団思考とも呼ばれ、「集団で決定された意思や方針の質が個人で考えたものよりも劣ってしまう現象」を意味する言葉です。

社会心理学で研究される「集団的意思決定」分野のひとつで、アメリカの社会心理学者アーヴィング・ジャニス(Irving Janis)が1972年に「集団浅慮」という概念を提唱しました。

「集団が選択肢を現実的に評価するよりも、満場一致を優先させようとしたときに生じる、素早く勝つ安易な思考」と定義づけられています。

集団浅慮は、主に少数派の意見を持つメンバーに対して、暗黙のうちに多数派の意見に従うよう強制させるような組織の同調圧力が原因で起こるため、「組織の和を乱したくない」「メンバーから嫌われたくない」などの理由から反対意見が主張できずに多数派の意見に従ってしまい、組織の視野狭窄や会議の形骸化につながる危険性があります。

集団凝集性が高く仲間意識が強い組織ほど注意が必要と言われています。

集団浅慮を誘発する7つの環境要因

集団浅慮(グループシンク)には、下記のような7つの環境要因から誘発されていると考えられます。

  1. 過大評価
  2. 閉鎖性・秘密性
  3. 均一化への圧力
  4. 時間的要因
  5. 強力なリーダーや専門家の存在
  6. 利害関係
  7. 高い集団凝集性

過大評価

「自分たちが絶対負けたり失敗するはずがない」という行き過ぎた楽観主義や、「自分たちの考えは絶対に正しい」という極端な思考から、自分たちの集団に対する過大評価が生まれ、不適切な意思決定が起こりやすくなります。

閉鎖性・秘密性

外部に対して閉鎖的で秘密性が高い組織では、話し合いの中身を外部に公表する必要がなく、外部からのチェックや情報提供が行われないために、組織の独りよがりな決定がなされる場合があります。また、過度の閉鎖性は、「自分たちは集団として間違っていない」「敵は弱くて間抜けだ」という集団的偏見につながり、不適切な意思決定が起こりやすくなります。

均一化への圧力

「集団の合意から外れてはいけない」という自分の意見への抑制や、「多くの人の意見が一緒であればみんなも同じ意見だろう」とう満場一致の幻想、「反対意見は許さない」という反対者への圧力、「自分たちが決めたことはうまくいっていほしい」という意思決定の正当化により、不適切な意思決定が起こりやすくなります。

時間的要因

時間が無いときは、内容よりも決定することが優先されやすくなります。

強力なリーダーや専門家の存在

強力なリーダーが存在する組織では、リーダーの顔色をみながら反対意見は控えられたり、リーダーの意のままに意思決定が進められることがあります。また、自分よりも遥かに知識豊富なメンバーがいると、専門家に追従し、メンバー自身の頭で考えなくなる可能性があります。

利害関係

意思決定において、特定の利害関係があると、自分にとって有利な決定がなされるように意見を進めたり、プレッシャーなどから早く逃れたいあまりに、十分な検討をなさないまま、進めてしまうことがあります。

高い集団凝集性

集団凝集性が高くなるにつれ、組織は良い雰囲気を壊すことになるため反対意見が言いづらくなり、組織のメンバーが発言を自制してしまいやすくなります。また、外部からの異なる意見を聞き入れなくなる傾向もあります。

集団浅慮を見極める7つのリスト

集団浅慮(グループシンク)には、様々な兆候が現れます。意思決定の際に、以下のようなチェックをしてみましょう。

  1. 代替案を十分に精査しない
  2. 目標を十分に精査しない
  3. 採用しようとしている選択肢の危険性を検討しない
  4. いったん否定された代替案は再検討しない
  5. 情報をよく探さない
  6. 手元にある情報の取捨選択に偏向がある
  7. 非常事態に対応する計画を策定できない

集団浅慮への7つの対策方法

集団浅慮(グループシンク)に陥らないためには、建設的な批判を貴重な意見だと重要視し、選択肢の分析に時間をかけるなどの対策方法が大切です。

集団凝集性が高い集団において、最も大事なことは、空気を読んで遠慮し合うのではなく、異なる意見が受け入れられる心理的安全性を築いていく集団環境を築くことです。

集団浅慮を防止するために、以下のような行動を積極的に活用してみましょう。

  1. リーダーは、メンバーが多様な意見を発言することを奨励する
  2. 影響力のある人物の意見を重視するのではなく、ささいな意見も公平に扱う
  3. 集団をさらに小さな単位に分け、小単位ごとの意見を全体会議に持ち寄る
  4. 「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」に注目するよう促す
  5. 外部の専門家に議論に加わってもらう
  6. あえて批判役のメンバー(もしくは外部の参加者)を作り、反対意見を述べてもらう
  7. 結論が出た後に、結論に至ったプロセスを全員で見直す